―――あなたの将来は、何色ですか?





「はぁ?」


 おれは昼食の焼きそばパンをほおばったまま、振り返った。冷たい風が髪を掻き乱していく。うざったくて顔を顰めた。


 屋上のフェンスを脇に挟むようにして寄りかかっていたおれの後にたたずんでいるのは、クラスメイトの優希。


 「ゆーた」と「ゆーき」。何だか似ている、ということで2人は普段から仲が良かった。


「だからね、」


 優希が先ほどの言葉を反復する。


「悠太の将来って、何色なのかなって」


「しょうらいぃ?」


「うん」


 頭のいい優希は、時々こういう哲学的な質問をしてくる。


 自他共に勉強、というか考えること全般が苦手なおれは、その度に頭を悩ませることになるのだ。


 今回も案の定容易に答えがでてこない。


 うーん。

 
 将来。しょうらい。英語で言えば"furture"。要は、ジブンノミライというやつだ。


 何色もなにもあったものか。


「優希は?」


「私?私は…」


 優希は少しだけうつむいて考えるような仕草をする。右手を口にあてる姿は、とてもかわいい。


「私はね、今は灰色にしか見えない。真っ黒じゃないけど、ぼんやり暗い感じ。最近、疲れちゃった」


「ふーむ」


 あ、ちょっと考えてる人っぽい声でた。


 優希、とおれは手招きした。優希がフェンスのそばに寄ってくる。


 優希が何、と口を開く前に、おれは素早くフェンスに足をかけてそのまま空中にダイブした。


「悠太!?ちょ、ばか!」


 頭上から慌てた優希の声と、ガシャン、とフェンスにはりつく音がする。


 おれは首を上に向けて、ひらひらと手を振って見せた。


 うちのガッコの屋上は2段構造ですよ、優希チャン。お忘れですか?


 おれの無事を確認した優希は、フェンスをにぎったまま大きな溜息をもらす。


「信じらんない…びっくりさせないでよ」


「な、今の予測できなかったろ?」


「え?」


「今のおれのダイブ、考えつかなかったろ。そんなもんじゃん?なんでお前灰色って決めちゃうわけ?


わかんねぇじゃん。いろんな色あるかもしんないじゃん」


「それは、そうだけど」


 下からフェンスを掴んで、よじのぼった。飛び降りんのはいいけど、上る時かっこわりぃな、これ。


 フェンスに足をかけて、座った。


 青空をバックに、おれは優希に笑ってみせた。


「じゃぁ、きまりだな!」


 今までで一番、おれがかっこよく見えるように。  


「おれ達の将来は、虹色だ!」












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