歴史とは、所詮紙に記された情報の集まりでしかないのだ。
大陸ソリコンティアは、歴史の始まりの時からその存在を当然のものとしていた。
東の端は、断崖をとうとうと流れ落ちる巨大な滝。 厚い雲が立ち込めて、滝の下方はおろか、前方も謎に包まれている。 人魚神話の発祥の地だ。
西の果ては、鬱蒼とした森林が、不気味な雰囲気をかもしだしている。 陽光は木々に遮られ、常に夜半のような視界の悪さだ。 死者の国へ続いている、と詩人は吟う。
南の末には終わりの見えない砂漠が横たわっている。 常に風が吹き荒れ砂埃が舞い上がり、未知の生物達が獲物求めて潜む場所。 大陸最古の文明は、この砂漠に栄えていたのではないかと伝えられている。
北の終わりには、頂上の見えない山麓が人々の行方を遮る。 山肌は黒く荒れているが、この山がソリコンティアを流れる全ての川の源を生んでおり、 野生生物も多く生息している。 神話の始まりの場所、神が住まう山とされている。
東西南北を自然に阻まれ、孤立した巨大大陸ソリコンティア。 大陸の外には何があるのか。人々は外界に思いをはせつつも、未だそれは解明されない。 かつて滝に落ちた者も、森に入った者も、砂漠を越えていった者も、山を登った者も。 誰一人として、ソリコンティアに生還した者はいないのだから。 この大陸が全てだった。この大陸が、世界だった。 閉鎖された空間で、人々は多くの歴史を築いてきた。
さぁ、我々の歴史を語ろう。 神話の時代は終わりを告げた。人類の繁栄を祝って、喜びの鐘を鳴らそう。 大陸は大乱の世を乗り越え、専制政体の国家が生まれた。 ソリコンティア東南部を統一した、帝国の始まりだ。 この帝国をどんなに否定しようと、我々はこの歴史を記さねばならない。 歴史を残し次世代に伝えることこそが、今を生きる我々の義務であるからだ。
ページをめくり、かつての帝国を思い返そう。 この記録から諸君らが歴史の理を学んでくれることを、大いに期待するものである。
〈皇国歴史書第7巻 帝国の書 序文より抜粋〉




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